嵌め込み屋奇談  その4

それは八王子市の大きな墓地の横のマンションに呼ばれた時のことだ。
そこには東南アジアの某国の姉妹が待っていた。
姉妹は大学生で、ソファーに座る僕の前に、壁面の収納から備前の人間国宝の金重陶陽の花生けと大皿を持って来た。勿論、紛れも無い本物である。当時は、まだ備前の人間国宝作品は人気があったので、僕の胸は高鳴った。一応、どうしたのか聞いたら、お母さんが日本人で、母方の祖母の蒐集品を形見分けで貰ったとの事。特に話に不自然さは無かったし、1階の郵便受けにも姉妹の名前が書いてあったし、日本語はペラペラだ。何処にも不審な点は無かったので、かなり高額で買い取った。

それは直ぐにお客さんに売ってしまったのだが、それから暫くして、もう一度姉妹の妹から電話がかかって来た。今度は油絵を売りたいと言う。
今度は、文化勲章受章者の有名画家の赤富士10号サイズだ。巨匠と言ってもいい画家だ。人気が有る。画題の赤富士も画家の得意なモチーフだ。
たしか査定金額は70万円だったと思う。けっこういい金額だ。僕の売値が恐らく85万円くらいだ。しかし妹は「もう少し、がんばりなさいよ」そう言った。

「いや、既に頑張ってるよ。もう無理です」
そんな問答が暫く続いて、妹が「ちょっと今回は見送ろうかしら・・・」
なかなかタフなネゴシェイターだ。
「じゃあ、幾らなら・・・」
僕がそう口にした時、玄関のチャイムが「ピンポン」と鳴った。その音は、10年以上経った今でも僕の耳に焼き付いている。
「早く!こっち!」妹が、僕の腕を掴んで、かなり強い力で、奥の座敷に引っ張って行った。
「ここで動かないように。明かりも付けないで!」
妹は鋭い目付きで僕にそう言うと、襖をピシャリと閉めて、出て行ってしまった。

僕は、まるで状況が判らなかった。かなり混乱した。どうしよう。暗闇で僕は、耳を研ぎ澄ませた。聴こえてきた会話は、
「あんた、今日は大学どうしたの!」「はい、休みです」「ほんと?サボってんじゃ無いわよ。もう」
はい、休みです?お母さんにそんな言葉使いはしないだろ。
「奥の部屋も掃除するわよ」「いえ、駄目です。奥の部屋は、姉さんが寝てます」
「えっ~、二人で大学サボったの~、いい加減にしなさいよ。掃除はするわよ」
今にも、僕の居る部屋に入って来るような勢いだ。なんだか判らないが、僕の置かれている状況は、とても不味い状況だ。その時になって、僕は自分がかなり深刻なピンチに立たされているのが感覚的に判った。玄関に抜ける、襖が有ったので、そっちからもう帰ってしまおうかと思い、そっと開けて玄関を見てみると、僕の靴が無かった。隠されていたのだ。
もう駄目だ、このままでは、状況は刻々と悪くなっていく。それは確実だ。
僕は意を決して、二人の居る方の襖を開けて出て行った。襖を開けた瞬間、随分、眩しかったのを覚えている。

そこには、妹と眼鏡を掛けた痩せた50代の女性が立って居た。
「あんた誰?」眼鏡の女性が僕に向かって発した言葉である。
まあ、僕でもその言葉を言うだろうな。
次の瞬間、妹は僕に呪詛のような言葉を投げつけて、走って玄関から逃げて行ってしまった。
残された眼鏡の女性と、僕はかなりシンドイ話し合いを行った結果、判明した事実は、
思っても居ない状況だった。

つまり姉妹は、眼鏡の女性の祖母が住んで居た所で厄介になっていた留学生で。
そこにあった品物を勝手に売ってしまっていたのだ。
その後のトラブルは、押して知るべし。ずいぶんと厄介な事が、長い間続いた。

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