《美術品の審美眼 第一回》

美術品・骨董品・書画・茶道具などに対する目を利かせられるようになる方法を書きます。
まず一般の蒐集家とプロの骨董品屋との違いをお話しましょう。

まず一番の違いは、一般の蒐集家の方は、めったな事では、集めた物を売らないと言うことです。集めているうちに目が肥えて、始めの頃に蒐集した物を売却するという事はあると思いますが、頻繁に売却する事はありません。しかしプロの骨董品屋は、どんどん買ってどんどん売ります。特に私は、買ったらすぐに売ります。

何故なら、時間が経てば経つほど、目垢が付いてしまうからです。目垢というのは、骨董業界用語で、実際に垢が付く訳では無く、たくさんの人間が見る事に拠って、骨董品などの新鮮さが損なわれると言うか、希少性が薄くなると言うか、つまり見る者を引き付ける力が無くなるという事です。

それを気にするベテランの骨董商は、旧家から買い付けて来た品物を誰にも見せずになるべく早く売り先に持って行きます。自分のワイフの目にも触れないようにします。本当は、出来るなら自分にも見せたく無い位なのだそうです。

でも骨董商は買取った骨董品や美術品や書画を店頭に陳列しているではないかと言われる方もいると思いますが、店に並んでいる品物は、実はどうでもいい品物の可能性が高いです。本筋の売りたい品物は、店頭などに並べず直接お得意さんに売却したり、業者間でひっそりと取引されたりしています。

話を戻しますが、骨董商は仕入れた品物をすぐに売却しますので、結果がすぐにで。
例えば私がまだ骨董商になりたての頃のはなし。
骨董商になり立ての頃の私は、よく見誤って骨董品を高く買い過ぎたものです。

でも、それが結果的には、骨董品を鑑定が出来るようになりました。
何故なら、高く買い過ぎて損をするからです。
見る目が無いうちは、真贋の目利きが出来ませんから、贋作や数モノ(本人の製作物では無く、本人がプロデュースした工房作の大量生産品)を本人作品と間違って買い取ったりしました。
高額で買取させていただいた品物は、とても気になります。

本やネットで調べたり、美術館で見たり他の業者に聞くなどして懸命に調べます。
すると、高く買い過ぎた事がなんとなく判って来ます。
でも、まだ売っていないので結果は判りません。例えば、店に並べて仕入れ値より高い値段をつけておけば、その状態に留まる限り、損はしていない事になります(しかし、売れないので塩漬け状態)。しかし、業者専門のオークションで売ると明快な結果が判明します。つまり、80万円で買った東郷青児の肉筆画が贋作で5千円でしか売れなかったりするので、49万5千円の損になります。

これはとても苦しい痛みになります。すごい挫折感、思い切り凹みます。
もう2度とこんな経験はしたくない。
そう強烈に思い、一生懸命に勉強するのです。
ぐんぐん目が利く様になります。人間は、イタミとか恥ずかしさとかが無いと真剣に学ぼうとしないものですからね。