骨董屋の種類さまざま Tさんの話《ハタ師4》

僕の知っているハタ師の話をしましょう。Tさんと言う九州のハタ師です。Tさんは、骨董の世界では知らない人はいない位に有名な骨董業者です。

僕は岐阜の市場で知り合い、それ以来、地方の何処かの市場で出会う旅に世間話をする仲になりました。
Tさんは、全国の骨董市場から市場へと渡り歩いて、品物を凄いスピードでグルグル回して商売していた力のあるハタ師でした。

扱う金額も、月に数億円に達する事もあったみたいです。
そのTさんが、東北の大きな市場に江戸時代の巨匠日本画家の群鶏図が出品作された時の話です。その掛軸を以前から大阪のコレクターから頼まれていたTさんは、勿論それを落札しました。金額は5千万円です。

仙台に店のある力のある書画業者と競り合い、殆どTさんには、儲けの無いかなり厳しい高額で落札したそうです。

Tさんは、その時期、たまたま大口の仕入れが続き、資金がショートしていたそうで、市場の会主を拝み倒して延べにしてもらいました。

延べとは、支払いを数日から1か月ほど、後払いにしてもらう事を言います。信用のあるTさんだからこそ、会主も認めたのだと思いますが、なんとTさんの顧客の大阪のコレクターが急死してしまったのです。
急死してすぐ、そのコレクターの蒐集品が暫くしたら、市場に売りに出されるという噂が広まりました。そうなると、Tさんの落札した群鶏図も捌くに捌けなくなりました。

現金化して市場の支払いに充てたくとも、その時に手放したら数分の一にしかなりません。とても5千万円などでは、換金できない状況です。困り果てたTさんは、そのまま行方をくらまし、延べの5千万円を回収できなかった市場は、資金繰りに困り、結局そのまま市場を解散してしまったのです。

Tさん・・・・もう日本中どこへ行ってもハタ師は出来ません。日本中の骨董品市場に触れ状が回って《出禁》になってしまったからです。
それ以来Tさんを見たという噂は聞かれなくなりました。

何処かで元気でいてくれればいいのですが・・・・。