掛軸偽物事情

むかしから掛け軸に関しては、ニセモノが多い。
江戸時代の最も著名な画家の一人、谷文晁などは1000本に1本の割合でしかホンモノが無いと言われている。

骨董商売を始めた頃は、私もそのニセモノ量産の背景が、曖昧模糊としか判らなかったのだが、20数年この仕事をしていると、段々と判ってきた。
まず、狩野は派の存在である。狩野派は弟子の育成システムとして、分本主義を採用していた。

これは、弟子のスキルを上げるために、ひたすら師匠の書いた手本を模写するのである。だから、ものすごい数の模写が後世にのこり、それに悪い業者が有名な狩野派の画家の名前を書き入れて判子を押して売ったのである。

また、昭和30年代から40年代に掛けて、贋作を大量生産して途方の旧家などを軒並み訪問販売する業者が沢山居て、風呂敷に担いで偽物を売りまくった。
大都市だとそれが偽物だと判定してくれる骨董品店が有ったりしたのだろうが、地方では身近にそんな店は無いので、真贋の判別がつかぬまま、そのまま仕舞い置かれる。

10年ほど前に東北の江戸時代から続く老舗の蔵を整理させて頂いた時は、1000本に及ぶ掛軸や屏風の全てが贋作だった事がある。ほとんどが同じ業者から購入した掛軸だった。(軸装が全く同じだったので。軸装とは掛軸の両端の芯のように細くなった部分や、絵の周りのキレや風帯や巻き紐などの総称です)