骨董品買取の旅 山形編

骨董品の買取の旅を始めてもう20年以上になる。
全国各地いろいろな場所に行った。沖縄と九州の一部の県と離島以外は、殆ど行った。その中でも印象の深い県は、やはり山形県だろう。

山形県は、とてつもなく優しさに溢れた県で、嫌な思いをした記憶が無い。
僕自身が山形県との相性が、特にいいのかも知れない。

初めて山形県に買取の旅に出かけたのは、忘れもしない2000年の9月11日だ。そうあの911が起きた当日。
僕は、山形市の老舗料亭の土蔵の整理をしていた。
友達が市内の製薬メーカーに勤めていて、その料亭をドクターの接待などに使っていた縁で、僕の所に話が来たのだ。

まだ、骨董屋になって間もなかった僕は、大きな蔵が3つもある料亭の仕事に舞い上がった。土蔵の中には、鎧兜や伊万里焼、竈面に山形特産の着物のカブリなど、見た事との無い骨董品や民具がぎっしりと詰まったいた。4tトラック数台分の荷物だ。何泊かしなければならない仕事だった。

一日土蔵の中を掛けずり廻り、至福の時を過ごした僕は、大変充実した気持ちで、ホテルに引き上げて来た。シャワーを浴びて、身体を拭きながら、テレビを付けると、飛行機がタワーに突っ込んだシーンを映し出していた。何が起きているのか、判らなかった。自分の目を疑うというのは、ああゆう事だ。心臓の鼓動が激しくなった。

その日は、ホテルのテレビに夜中まで釘付けだった。
僕の骨董屋の人生の転機とも言える仕事と911テロ。僕の中でそれは結び付いて離れない記憶の塊になっている。

あれから20年近く経つが、あの仕事が僕の中では一番記憶に残っている。